『危機からの脱出』を本気解説。900ページ超に理由アリ!デミング博士が最も伝えたいこと

日経BPから2022年に出版された『危機からの脱出』。

デミング博士が母国アメリカにおけるマネジメントの変革を求めて

1982年から1986年に『Out of the Crisis』としてアメリカで出版された名著です。

しかし、膨大なページ数に怖気づいている人は多いのではないでしょうか。

そこで膨大なページ数になった理由と共に

読むときの目のつけ所を超圧縮して分かりやすく解説します。(要約ではありません)

目次 ٩(o-o)/
☑ 「オペレーショナル・デフィニション」とは
☑ デミング博士が最も伝えたいこと
☑ 膨大なページ数の理由
☑ デミング博士が2番目に伝えたいこと
☑ まとめ

※ 引用部分は【】隅括弧で表示

※ 以下『危機からの脱出』を「本書」と記載

「オペレーショナル・デフィニション」とは

はじめに本書の核心に触れます。

それは「オペレーショナル・デフィニション」です。

これは【 仕事のやり方の具体的な定義 】のことですが、コンビニを例に解説します。

ある日、新しくアルバイトさんを雇って

店長さんが「きちんとレジ作業してね」と指示したとします。

しかし、アルバイトさんの仕事はレジ作業だけではありません。

「○○の商品はどこにありますか」や「トイレを貸してもらえますか」と

尋ねるお客さんもいるので、そのようなときの対応も必要です。

このとき私たちは「これくらいなら普通に接客できるだろう」と考えがちですが

実際には上手く接客できないアルバイトさんもいます。

また、一般的な店長さんは“気が利く人”ばかり雇いたくなり、

“気が利かない人”を避けたり低く評価したりすることがあります。

これをオペレーショナル・デフィニションに当てはめて考えます。

そうすると、指示に問題があるといえます。

もし、店長さんがレジ作業のことしか指示していないなら

レジ作業以外のことを考慮してアルバイトさんを評価することは不適切です。

これはオペレーショナル・デフィニションを分かりやすく解説するための例ですが、

実務では、よくあるトラブルの原因です。

上司や先輩が言いそうな「そんなこと言わなくても分かるだろ」みたいなことです。

これを防ぐために【 仕事のやり方の具体的な定義 】が重要になります。

デミング博士が最も伝えたいこと

本書の核心といえるオペレーショナル・デフィニションは

Ⅰ巻・Ⅱ巻の全18章における第9章で詳しく解説されています。

その理由はデミング博士が最も伝えたい「14のポイント」を

第2章で先に解説するためと私は考察しました。

14のポイントは一言でいうと、組織マネジメントの原則(または土台)です。

仮にオペレーショナル・デフィニションを先に解説すると

デミング博士が最も伝えたいことを読者が誤解する恐れがあります。

また、オペレーショナル・デフィニションは本書の核心であると共に

14のポイントを伝えるための手段です。

よってデミング博士が最も伝えたい14のポイントを先に解説し、

次にオペレーショナル・デフィニションを解説する順番が

読者にとって分かりやすい構成になると本書の制作者は判断されたと考えられます。

膨大なページ数の理由

私は本書を読みながら、膨大なページ数の理由を考えました。

はじめはデミング博士が想定した読者に目をつけました。

デミング博士は、特に日本の製造業において有名な人物として知られています。

また、アメリカの政府機関などでも働いた経験がおありです。

このため製造業だけでなくサービス業の読者にも読んでもらえるように

たくさんの事例を盛り込んだ結果、膨大なページ数になったと考えました。

しかし本書を読み返していると、もう1つの考えに辿り着きました。

それがオペレーショナル・デフィニションです。

前に【 仕事のやり方の具体的な定義 】と解説しましたが、

もう少し詳しく解説すると「概念の伝達」のことです。

先ほどのコンビニの例に当てはめて考えてみます。

たとえば自分の考えを相手に伝えるときに

「ちゃんとしてね」という表現では、多くの人が伝わりにくいと思うはずです。

では「マニュアル通りに仕事してね」」は、どうでしょうか。

マニュアルに商品の置き場の案内方法は書いてあるでしょうか。

トイレの貸し出し時の対応方法は書いてあるでしょうか。

仮に全ての対応ケースを網羅しようと

一般的な店長さんが思い浮かべた言葉をそのまま文章にしてマニュアルを作ったとします。

そうすると、それらを全て覚えるまでには膨大な時間がかかり現実的な対策とはいえません。

実務では「意味が分かればOK」ではなく

「相手に意図や本質まで伝わる」ことが重要なのです。

特に組織マネジメントの実務では、伝える相手や状況に応じて

言葉の表現やコミュニケーションの方法などを工夫しなければなりません。

デミング博士が考える「概念の伝達」とは、一般人が考えるほど単純なことではないようです。

つまり、最も伝えたい14のポイントとそれに付随する内容を手短に解説しても

読者に意図や本質が伝わらないことをデミング博士自身が理解していたため

デミング博士の実体験や友人・知人のエピソード、

サービス業を含む様々な事例などを集めた結果、膨大なページ数になったと考えられます。

それくらいデミング博士は、私たちに大切なことを一生懸命に伝えようとしているのです。

デミング博士が2番目に伝えたいこと

次に、デミング博士が2番目に伝えたかったと考えられる手法について解説します。

それはランチャートの活用です。

ランチャート(管理図の一種)は、QC(Quality Control)で学ぶQC7つ道具の1つで

問題解決などを行う上で役立つ思考ツールとしても知られています。

QCの実践者からも難しい印象を持たれがちなランチャートですが

ここにQCの学びの原点と本質があると私は考えています。

では、なぜランチャートがそれほどまで重要かというと

データの動きをもとに現状を把握するための思考ツールだからです。

本書では統計学者であるデミング博士の視点から

ランチャートを使ったプロセス(またはシステム)の安定について

様々な事例をもとに様々な角度から解説されています。

この点については統計学の知識が必要になりますが、

今は統計学の知識がない人も、プロセスの安定について学び、

現状把握の理解を深めるために本書を読む価値は十分にあります。

もちろん統計学実務(特に応用統計学)の上級者でも価値ある名著になるはずです。

余談ですが私はほぼ独学で約15年にわたってQCを学びました。

長い年月をかけて分かったことは、ランチャートの重要性です。

市販のQC解説本を中心に学んだ人は

ランチャート(管理図の一種)の使い方をイメージしにくかったはずです。

その理由は2つあります。

1つは、データの動きをもとにした現状把握について明確に指摘していないためです。

もう1つは、もの作りを中心とした解説ばかりで

不良品などへの対策にしか使えないと思ってしまうためです。

本来、ランチャートは直近のデータを記録・観察して現状を把握するために使います。

もちろんデータの対象は、売上や受注件数、コストなど何でもOKです。

その次に他のQC7つ道具を使って問題を解決する手順が基本になります。

この流れで組織マネジメントにおいても重要なキーワードになる

「一般要因と特殊要因、第1種の誤りと第2種の誤り」が解説されているので

QCを学んだものの、よく分からなかった人だけでなく

これらのキーワードをはじめて学ぶ人でも理解を深められるはずです。

まとめ

改めて本書を読むときの目のつけ所を以下に記します。

1.Ⅰ巻は「組織マネジメントの原則である14のポイント」を詳しく解説している

2.膨大なページ数の理由は、デミング博士自身が「概念の伝達」の本質を理解しているため

3.Ⅱ巻は「動きのあるデータの現状把握」と「プロセスの安定化」を詳しく解説している

4.デミング博士は全体を通して【 仕事のやり方の具体的な定義 】の重要性を解説している

5.個別事例をもとに「一般要因と特殊要因、第1種の誤りと第2種の誤り」を解説している

本書に登場する日本企業の事例は

高度経済成長期における優良企業の情報なので違和感があるかもしれません。

とはいえ、組織マネジメントの本質を理解することに

ピントを合わせて本書を読むと目からウロコの事例が盛りだくさんの内容です。

最後に、私にとって印象深かったデミング博士の指摘を1つ上げます。

私たちの(製造業・サービス業を含む)仕事に深く関係する内容は次の通りです。

【 医療の仕事の質を高めても医療への失望の件数がへることはない。<中略>この理由は 】

続きは実際に本書を手に取って確かめてください。

ぜひ、読むときの目のつけ所を絞って900ページを超える名著にチャレンジしてください。

『危機からの脱出』の読者が一人でも増えれば幸いです。

この記事があなたのお役に立てたなら嬉しいです。

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