理系・文系の違いを社会人が本気解説・続編!「自然科学の考え方」と「学びの活かし方」まとめ
さて、前の記事 では「理系・文系の違い」に焦点を当てたので、私が本当に伝えたいことを解説できませんでした。それは自然科学の考え方です。
これから理系の道に足を踏み入れつつある人だけでなく、学び直しを検討している文系の人にも参考になれば幸いです。
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自然科学の考え方とは、以下の通りです。
理系はウソつき!
私が高校生だった頃、ある数学の先生が授業中に次のように言いました。
「(しんみりと)僕は、君たちにウソを教えてるんや」
クラスメイトは笑っていましたが、私にはなぜか忘れられない一言でした。
この年になって、ようやく先生の言葉の意味を理解できるようになりました。
理系の会話には、前提というものが頻繁に入り込みます。
たとえば前の記事で触れたように「ウイルスを殺す」という表現は、
正しい表現ではありません。
なぜなら、ウイルスは生き物ではないからです。
というと、
ウイルスが生き物ではない理由を長々と説明することが必要になります。
このように科学的に正しく説明しようとすると
専門用語が飛び交い、その専門用語の説明も専門用語を使わざるを得ません。
そこで、この面倒を省くために
「ウイルスを殺す」と表現しても
この状況に相応しい内容が伝われば、いいんじゃね?
という誠実な想いをもとに表現した結果が「理系は、ウソつき」なのです。
私の数学の先生は、このように考えて発言したと思います。
理系は正直者!
ウラを返せば、
理系は、前提や専門用語を使わないと
「ウイルスが生き物かどうか」さえ説明できない正直者です。
理系は、とてもピュアな存在なのです。
理系と数字
理系にとって数字は欠かせません。
そこで、統計学を使います。
統計学は、とてもクセが強い学問です。
統計学は奥が深くて相当な勉強量が必要になるので、
ここで理系分野への理解を諦める人は少なくありません。
しかし、本記事が解説するポイントだけでも知っておけば、
過剰な理系アレルギーは和らぐので最後までお付き合い下さい。
では、なぜ統計学がクセが強いのかというと、
統計学では「○○である」と断言しません。
なぜなら統計学は、断言しない学問だからです。
これが他の学問との大きな違いです。
身近な例では、天気予報があります。
あなたも毎日のようにチェックしている降水確率です。
誤解を恐れずにいうと、統計学は発生する確率を出すための学問です。
一方で、文系は「○○である」と、当然のように表現します。
その理由は前の記事で触れましたが、
改めてザックリいうと文系とは、そういうものだからです。
自然科学の考え方を理解していない人は、
ご自身が詳しくない分野に関しては「○○である」や「○○して下さい」などと
言い切ってもらわないと、モヤモヤまたはイライラを感じるようです。
しかし統計学では、余程のことがない限り100%を出しません。
思い出して下さい。
「明日は、絶対に雨だろ」みたいな日でも
前日の天気予報では降水確率が80%や90%だったりします。
簡単にいうと、膨大な前提(過去のデータ)があるから
100%と断言できないのです。
断言すると「理系 or 科学者」としてウソをつくことになります。
このような背景があるのでマジメな理系の人ほど
「○○が期待できる」
「○○の恐れがある」
「○○の可能性がある」などの表現を話しの語尾に付け足します。
「科学的に証明されていない」の本当の意味
この言葉は最も誤解を生む原因となっているので、丁寧に解説します。
ときには、相手をねじ伏せるチカラ技としても使われているため、
その意味や背景について、細心の注意を払って読み解く必要があります。
専門家もサラリーマン
結論からいうと「科学的に証明されていない=ウソ(間違い)」とは限りません。
(「エビデンス(証拠)がない」も同じです)
たとえばアイスクリームの売上は、気温と深い関係があります。
この意見に疑問を抱く人は少ないはずです。
では、仮に何かの専門家っぽい人がテレビなどで
「アイスクリームの売上と気温の関係については、科学的に十分に証明されていない。だから、関係がないとも言える!」と、発言したとします。
この意見に対して、あなたは何を思うでしょうか……
確かに、ビジネス目線で本気で考えれば
気温の他に「湿度・降水量・地域性・市場規模」などのデータを集めて売上を正確に予測すべきです。この意味においては「科学的な証明が十分に行われている」と言い切れないという見方もアリです。
だからといって、
「アイスクリームの売上と気温の関係については、関係がないとも言える!」とする主張は、屁理屈ではないでしょうか。
少なくとも私の数学の先生が「僕は、君たちにウソを教えてるんや」と言ったように、生徒たちが数学を学ぶ段階を考慮した「その状況に相応しい説明」とは程遠いものです。
もし、このアイスクリームの売上と気温の関係を否定する主張を「その状況に相応しい」とするなら、それは発言する人の個人的な都合において「その状況に相応しい」といえます。
自分の地位・名誉・威厳が脅かされる状況に対しては、専門家も屁理屈を並べます。
専門家もサラリーマンです。
そうしないと、給料が減るからです。
サラリーマンでなくても、自分の地位などが脅かされると仕事が減ります。
自分が好きな研究テーマへの予算が削られる恐れもあります。
だから、新しい主張が自分の研究テーマを脅かそうとする際には
「科学的に証明されていない」という主張が好都合なのです。
とりあえず、その場では決着を付けず結論を出すことを先延ばしできるだけに……。
自然科学の考え方に基づくなら、新しい主張に対しては
すでに検証されている報告書・論文を探す
あるいは後日、実験を行って決着を付けるべきなのですが……。
(ちなみに「エビデンス(証拠)がない」も同じことですが証拠がない原因には、現実的な話しとして証拠を集められない、研究してもお金にならないから証拠を集めない・集められない、研究者の怠慢で証拠を集めようとしないなどがあります)
「自然科学の考え方」について
ここまで「理系はウソつき」、「理系は正直者」、「科学的に証明されていない」について解説してきました。
では、自然科学の考え方とは一体、何でしょうか。
一言でいうと、検証による答え探しです。
これを難しく考える必要はありません。
事実(「答え」のこと)かどうか調べる(「検証」のこと)だけです。
意見がある人は、自分の主張を言いっ放しにするのではなく
検証を行って、誠実に答えを探し出さなければならないのです。
検証を行わない理由は、不都合な真実が隠されているからです。
ちなみに本物の理系の人は、事実に基づいて検証を実践できるから理系なのです。
これを実践できない人は、
自分の意見を支持する事実・根拠だけを集め、言葉遊びに終始します。
また、この傾向が文系の人に多いことは言うまでもありません。
そこで以下に、大まかな検証のコツを3つご紹介します。
これらは検証の基本プロセスになります。
検証のコツ①(疑わしきは、自分で調べる)
「肩書きがある専門家だから、ウソは言わないだろう」という考え方が
誤りであることは先ほど解説しました。
意図的なデータの偽造や改ざんは論外ですが、
たとえば「○○という論文・報告書がある」という主張に出くわしたときは、
まず「科学的に証明されていない」と発言した人の真意を
「専門家として公平・公正に集めた事実に基づいた発言」なのか
「議論に負けたくないための屁理屈や極論」に分けて考えます。
ここでのポイントは、まっさらな目で観ることです。
自分の感情(良い感情・悪い感情とも)を抑えられないなどの理由で
まっさらな目で観ることができないときは、時間を空けてから検証を行います。
これらを頭の片隅に置いておかなければ、
「○○という論文・報告書がある」とする主張に反対する論文・報告書があるかもしれないことを見過ごして判断してしまいがちです。
とはいえ、私たち一般人が専門的な論文などを調べることは簡単ではありません。
そういうときは、その主張が当てはまらない事実を1つ探すだけでも構いません。
探すのは「事実」です。
屁理屈ではありません(笑)。
このような積み重ねが自然科学の考え方を身に付けることになります。
ちなみに、自然科学以外の分野の論文・報告書には
再現できないデータ(第3者が調べると、同じような結果にならない)が
多いという話しは、よく耳にします。
検証のコツ②(「あるとき、ないとき」を比較する)
私は生物系の理系(農学部)でしたが、
大学生の頃に行っていた実験では
「あるとき、ないとき」の比較は、日常的な作業でした。
たとえば、Aという薬品を使うとします。
そのときにAという薬品を使わない実験も同時に行うということです。
Aという薬品を使った実験だけ行っても
その結果は、偶然によるものだったかもしれません。
前に触れた第3者が調べると、同じような結果にならない実験結果の場合
偶然による調査結果を利用したか、
実験の方法に不正の手が加えられたかのどちらかです。
もちろん実験の対象が自然科学に近いほど不正は、行われにくくなります。
とはいえ、実験の対象が自然科学から遠い分野(アンケート調査など)でも
本当に真実を知りたい人が実験すると、
理系・文系に関わらず、自然科学で求められる正しい実験方法が用いられます。
「あるとき、ないとき」の比較に関する身近な例は、ダイエット商材です。
「これで痩せました!」という宣伝・広告には、
「個人の感想です」や「他の食事制限も行いました」などの文言が
小さな文字で補足されています。
この例について、自然科学の考え方に基づくなら
ダイエット商材を使わず「他の食事制限も行いました」のパターンでも実験を行って
ダイエット商材を使ったパターンの効果から差し引いたものが実際の効果になります。
これが「あるとき、ないとき」を検証するということです。
ただし、これは「自然科学の考え方に基づくなら」です。
もう一度いいます。
「自然科学の考え方に基づくなら」です。
検証のコツ③(たくさん調べる)
少し前に「偶然による調査結果を利用」としましたが、
これを解決してくれるのが統計学です。
とはいえ、私たち一般人が難しい統計学を使いこなすことは簡単ではありません。
そこで、目安くらいは解説しておきます。
というのは、何をもって「科学的に証明された」と言えるかが重要になります。
その基準の1つは、件数です。
内容やデータの集め方にもよりますが
500件あるいは1,000件以上のデータ数が必要になることが多いようです。
(この件数は、職場などの調査でよく使われます。)
この意味においては、一定数以上のデータが集まるまでは
「科学的な判断ができない状況」ということになります。
科学的な判断ができない状況においては、警戒が必要です。
何が言いたいかというと、これまでとは違う何かが起きたとき・起きそうなときに
これまで通りの行動ではない行動が必要ということです。
(この点については、深入りせずに解説をこれくらいに留めておきます)
たくさん調べた形跡がなく、
数字の背景などが一切触れられていない主張に対しては、
「そういうことね、ふ~ん」くらいに受け取るべきと私は考えています。
理系に身に付くのは、思考力!
自然科学の考え方では
「何が真実で、何が真実でないか」を言い切れないことは少なくありません。
科学は、過去の事実を新事実が塗り替えることのくり返しです。
それでも物事をさまざまな視点から観ようとする意思こそが
真実に近づくための唯一の手段です。
(俗にいう「専門バカ」という言葉は、さまざまな視点で物事を観る意思を放棄しているときの専門家を指していると思います)
物事をさまざまな視点から観ようとする意思には、思考力を高める効果があります。
思考力とは、物事を柔軟に考えるための筋肉です。
思考力(筋肉)が身に付くと、
「アイスクリームの売上と気温の関係は、科学的に証明されていない」という主張くらいは、「屁理屈だね」と秒で切り捨てられるようになります。
テレビ番組が文字を赤色・黄色・紫色などにデザインして、不安や恐怖をあおるBGMを流しても
主張の背景や数字を頭の片隅に置いて判断は下さないように
普段から自分に言い聞かせておく習慣が思考力を高めます。
思考力とは
では「思考力とは、どのようなものか」について
世界的にも有名な事例に少しアレンジを加えて解説します。
たとえば、あなたが次のような問いの答えを求められたとします。
「まず、日本国内のピアノの調律師の最新の人数をインターネットを使って算出して下さい。そして、算出結果の計算プロセスを説明して下さい。制限時間は今から60分、日本ピアノ調律師協会が公開しているデータおよび問い合わせなどは使用禁止です。」
(「調律」とは、楽器が発する音を調整すること)
以下に、私の思考プロセス(解答)をお見せしますが
ぜひ、あなたも一緒に考えてみて下さい。
時間があれば、実際に時間(30~60分)を測ってチャレンジして下さい。
▼ 思考プロセス1
はじめに、タケモトピアノのHPにアクセスしました。
しかし、タケモトピアノさんは中古品販売がメインであることに気づいて
作戦を練り直します(笑)。
次に、政府が公開している情報を探すことにしましたが、
知りたい情報へのアクセスが複雑だったのでこれも中断しました。
次に、とある会社のHPでピアノの販売台数を知ることができました。
さらに、国立国会図書館のレファレンス記録から
政府が公開している情報に辿り着くことができ、
ピアノの出荷台数を知ることができました。
▼ 思考プロセス2
ここで私は、あることに気づきます。
年間の販売台数や出荷台数が分かっても、
ピアノの設置数(数年前の購入や数十年前の購入など)は分かりません。
これは、とても重要なポイントと私は考えました。
なぜなら、ピアノの調律は出荷時だけでなく
販売後も定期的に必要になると考えたからです。
これは、大問題です!
「購入者が何年間ピアノを持ち続けているか」なんて見当もつきません。
そこで私は考え方を大転換して、問題を置き換えることにしました。
これは適切な方法とはいえませんが、ウラ技が的を射ることがあります。
さらに、私が得意?とする統計学を活用しました。
まず、小学生だった頃(公立の小学校)を思い出しました。
小学校では音楽会が開催され、
毎年1,2人がピアノの演奏を引き受けていました。
また、私が小学生の頃は1クラス30人ほどでした……ここに目を付けました!
これらの数字を使えば、ピアノの設置数を算出できると考えたのです。
ネットで調べると日本の総世帯数は、およそ5000万世帯。
しかし、よく考えるとピアノの演奏を引き受けるクラスメイトは
自分から名乗り出たり、先生から声を掛けられていたりしていたので、
実際には隠れたピアノ所有者もいたと推測できます。
そうすると、実際には
1クラス30人のうち2,3人(世帯)はピアノを持っていたと考えられます。
で、ここは間を取って2.5人(世帯)としたいところですが
計算を簡単にする工夫を加えて、2.4人(世帯)とします。
計算は、日本の総世帯数5000万を30で割って、2.4を掛けます。
すると、400万です。
これが購入者がピアノを持ち続けている全数(世帯数)になります。
▼ 思考プロセス3
さて早速、調律師の人数を算出するステップに進みたいところですが、
その前に、400万台のうち
実際に調律を受け続けている台数を算出する必要があります。
現実の話しとして、400万台すべて調律を受け続けているとは考えられません。
突然ですが、社会人経験が長い私には気づいているヒミツがあります。
それは、どんな世界でも本気で取り組む人は、1~2割というヒミツです。
そして、これも間を取って1割5分とします。
計算は、400万台に1割5分を掛けて60万台を算出します。
これが継続的に調律を受けているピアノの全数になります。
▼ 思考プロセス4
次に、ピアノ60万台を調律するのに
何人の調律師が必要とされるかを考えるわけですが
ここは逆から考えました。
1人の調律師が1年間に調律しているピアノの台数を算出して、
その台数で全数60万台を割れば、調律師の人数が判明します。
さらに、私は調律師という仕事は生計を立てられる専門職と想定した上で
平均的に月30万円の報酬をもらっていると仮定しました。
(その他経費(交通費など)を除いた「純粋な調律の料金」を仮定)
月30万円の根拠は、確かな情報をつかみ切れなかったのでザックリです(笑)。
(「中央値」という数字を採用したつもりです)
ネットで調べると1回の調律による報酬は1.25万円くらいだそうです。
これらを踏まえると、
1回の調律で1.25万円の報酬を受け取る調律師が月30万円を稼ぐ
と仮定することになります。
そうすると計算は、30万円を1.25万円で割って、24台を算出します。
これは1ヶ月で調律するピアノの台数なので
年間では、これに12を掛けて288台を算出できます。
最後に、継続的に調律を受けている全数60万台を288台で割ると、
およそ2083人の調律師さんが国内にいるという答えを算出できました。
(ちなみに、この問いの元ネタはノーベル物理学賞の受賞者エンリコ・フェルミ氏が大学の学生に問いかけたものだそうです。(Wikipedia「フェルミ推定」(2021年2月18日 (木) 13:37)より))
▼ 考察1
さて、日本ピアノ調律師協会のHPを確認すると
国内の調律師は、1万人くらいとの予測が公開されていました。
少しテンションは下がりましたが、
その次に目を向けると2500人という情報もあるではないですか!
やったー!!!
……
……
……
いや実は、答えが合っていた否かは重要ではありません。
思考プロセスが正しかったか否か
あるいはその思考プロセスに至った自分への問いが重要なのです。
このため調律師の人数だけでなく、
「算出結果の計算プロセスを説明して下さい」と問いかけたのです。
計算結果だけなら、不正行為や偶然による正解の可能性を捨てきれません。
しかし、計算プロセスを説明してもらうと
不正行為などの可能性を大きく低下させられたり、
無理難題を突破する能力をチェックできたりします。
このような理由で、新しい発想を取り入れたい会社では
採用面接などで思考プロセスを確認することがあるようです。
▼ 考察2
「先生と生徒、出題者と回答者」による大多数の試験は
出題された時点で、正解は決まっています。
しかし、現実の社会では正解は1つではないことのほうが圧倒的に多いのです。
つまり現実の社会の問題を解決するためには、思考力が欠かせないのです。
今回の問いかけの制約条件は3つほど(手段・制限時間・禁じ手)でしたが
実社会は、制約条件(前提)だらけです。
もちろん一定の時間内で、一定レベルの結論を出さなければなりません。
お金やメンバーの知識・能力などの制約もあります。
さらに実社会では、現場にいる人だけが知る制約条件が結論に強い影響を与えます。
メッセージ
理系の中でも物理・生物をはじめ
数学系・工学系・IT系などそれぞれに特徴があります。
自称・理系の人でも検証のコツを理解されていない人は多いようです。
検証プロセスや思考プロセスのことを理解していないと、
たとえ理系出身であっても、知識を実社会で活かすことはできません。
文系であれば、なおさら検証プロセスや思考プロセスについて知っておくべきです。
ペーパーテストで解答用紙に答えを埋めることが「優秀」とされる学生なら話しは別ですが
そうでなければ、理系分野を学んでも長続きしません。
なぜなら、楽しくないからです。
学び直しで得た知識を使って、
実社会・実生活に当てはめながら考えて、
予想が的中したときに得られる快感がエグイから、理系分野を学ぶのは楽しいのです。
本記事では、自然科学の考え方を中心に解説しました。
しかし、実社会では自然科学の考え方だけでは不十分なことが少なくありません。
この点については、また別の機会に♪